【記事】成都がビジネス都市として注目されるわけ

先日、米国経済雑誌『フォーチュン』が「世界で最もすぐれた発展ビジネス都市」のランキングを発表した。選ばれた世界の15の都市のなかで、中国では成都市と重慶市が選ばれていた。

 成都といえば何を思いつくだろうか。上野動物園にやってきた「シンシン」と「リーリー」など愛くるしいパンダの生息地、辛いものの代表食である麻婆豆腐・坦々麺、かの有名な三国志の舞台の一つなどなど、観光ネタにも事欠かない場所だ。中国内陸地と言ってもこんなに日本人に知られた場所はないだろう。そして、2008年に起こった四川大地震東日本大震災を経験した我々日本にとっても思い出される大きな大震災が起こったのも四川省成都の周辺地域である。

 3カ月前、筆者は成長著しい四川省成都市を訪れた。日本からの技術導入を希望する成都の大手企業がぜひ、成都のファンドの人達と会って欲しいと言ってきたためである。しかし、これは表向きの理由だ。

 中国内陸では、西域発展政策のもと国家からの投資が盛んで、多額の投資を受けて成長した企業が多い。しかしその実態をみると、巨額の設備投資が行われたものの収支が合わないまま企業運営が行われていたり、ガス開発のためのパイプ敷設のライセンスだけを持っているだけで多額の利益を上げていたりと、いびつな経営構造になっている企業が多い。それらの企業が上海や深セン、香港で株式を上場しようと取引所に申請しても、「中身が備わっていない」「技術が確立していない」といった理由で上場できなかったりする。そこで、その中身を日本企業と技術提携したり資本提携したりすることで補おうという魂胆なのだ。全ての四川省の企業がこのような実態だとは言わないが、相当数の企業にこういった問題があり、提携できる日本企業を探すために私たちが呼ばれたりする。

 日本企業の側からみても、これはいい話だろう。日本の技術を強く欲する中国企業と提携することで、中国からの資金を次の開発のために使っていくことができるようになるからだ。


園都市、成都

 東京からは成都まで直行便の飛行機が飛んでいる。わずか4時間半のスムーズなフライトだ。そして、成都に着いた途端感じるのは、気候が非常に過ごしやすいということだ。生活水準も高い。近年の成都の成長は著しく成都市民の可処分所得は、大連、ハイナン、チンタオと同じぐらいで沿岸部都市に比べてもひけをとらない。耐久消費財保有率も中国平均を大きく上回る。

 その成都は、最も幸福感のある都市として中国内では2位に選ばれたことがあるのだという(1位は杭州)。「生活の質の高い都市」ランキングでは4位。中国の有名雑誌『商務旅行』の評価である。

 日本では最近「スローライフ」という言葉が流行っている。静岡県掛川市のように「スローライフ・タウン」なんていうのも都市宣言としてお目見えしている。そして、ここ成都は自分たちの街を「休閑」と呼ぶ。現地の人には「茶館が最も多い街」が成都だと言われる。茶館は、中国茶専門の喫茶店。ここで「休閑」を満喫するのだ。ちなみに「休閑産業」はレジャー産業、「休閑服装」はカジュアルな服、という意味である。

成都でのビジネスについてみていこう。成都人は、ビジネスでは上下の分け隔てがない、自由な気質が特徴だといわれている。私が訪問したときも中信銀行成都行長(地域の総責任者)がたくさんの若手のメンバーを連れて普通の火鍋レストランで汗を一杯かきながら鍋を突っついていた。このクラスの人がこんな場所で夕食を皆ととるのは、他の地域ではあまり見かけない。

 知人に深センで出会い、その人から突然成都の知人を紹介されたのだが、それで無二の友人のように扱ってくれて食事まで接待してくれた。何をやっているのか、どんな立場なのか根掘り葉掘り聞かれないし、楽しい会話が続き、結局仕事を一緒にやることになった。グワンシ(関係性)を重んじる中国では、知人の知人ということになれば、途端に自由な雰囲気になり、警戒心が消えるのだ。

 成都深センと同じように、上下関係や差別意識がなく自由で商売がしやすいと中国人ビジネスマンから良く聞いていたが、まさにその通りであった。そして「賭けマージャン」が大好き。「どうしてこんなに成都が発展したの」という問いに一同、「みんな賭けマージャンが好きだから」と答えていた。


コンビニエンスな成都

 のんびりだけど、面倒くさがり屋でもあるらしい。デパートやスーパーをのぞいてみると、鍋や炒め物に使うカット野菜のセットがパックに詰めて販売されているのが目に付く。他の中国の地域では見られないカットフルーツなども数多くそろっている。手間ヒマかけて料理するより、これらのコンビニエンスな製品を好む人が多いのも成都人らしさなのだという。そして、昼も時間がないと路地の坦々麺店に入り込んでささっと済ませてしまう。

 デパートやスーパーの品ぞろえは上海や深センの店舗を上回る。生活を楽しむ気風は、「大きければいい、ゴージャスならばいい」という昨今の中国気風の中では異質で、むしろ欧米的との印象を受けた。内陸の消費基地を中国国内で探すなら、ここ成都こそが有力候補なのではないか。

 一方、経済開発区などの職場地域は、綺麗に整備され緑に囲まれた、一見シリコンバレーにあるような建物や佇まいが続く。「あーこんなところなら、働きたいな」と日本人にも思わせるような、環境と生活の調和が取れた敷地にビジネスオフィスがあるのだ。そしてそれらの建物には、様々なレストランや映画館、娯楽施設が併設されている。ビジネスマンの働く環境が最も考えられている成都の町並みを目にして、ここが中国なのかと錯覚に襲われる。

 だが、成都はまだ日本には馴染みがない。日本語ができる人や会社は少ないし、現地企業を対象に調査をすると「欧米企業には関心があっても日本企業には関心がない」という回答が多い。実際、IBMインテル、オラクル、SAP社など欧米系の企業が多く成都に進出している。日本企業では、トヨタ中国第一汽車集団公司と合弁、3万台の生産規模(天津、広州に次ぐ規模)にまで拡大しているほか、ホンダ、ヤマハなどが進出しているが、どうも自動車、二輪に偏っている。

 そのような企業で「成都に赴任」との辞令が降りると、「せめても上海か北京ぐらいにしてもらえませんか」と泣きつく日本人ビジネスマンが多いらしい。だが、成都にいざ赴任すると日本に帰りたくないと言い始めるようだ。ビジネス都市としての成都は、これからもっと注目されるべきなのではないかと思う。

【記事】日系BP社