【記事】中国の水環境問題―開発による水不足と汚染

高い経済成長を続ける中国にも水環境問題がある。黄河の断流と、中国南部の太湖の汚染を紹介する。

1.水不足と断流に悩まされる黄河
滔々と流れる黄河であるが、場所により川幅は大きく異なる。はじめて鄭州空港から黄河を渡ったのは10年前で、広い河川敷と細った本流が印象に残った。黄河の水不足は当時から話題になっていた。

中国北部は、降雨量が少ないうえに、近年の気候温暖化の影響で、水源の青海高原の氷河・凍土が溶け、湖沼が干上がり、砂漠化が進み、水不足が深刻になった。80年代後半に黄河の水が海に届かない「断流」現象が起こるようになった。

黄河は流砂量が多く、上流の土壌浸食、下流の河床の上昇のため、降水期には洪水を起しやすい。古代から、洪水のもたらす黄砂が豊かな穀倉地帯を生み、流域にある河北省、河南省山東省の農業を育てた。ところが水不足のため灌漑水が得られず、小麦など水を使う作物の栽培は困難になった。

水不足は、流域の都市化や工業化、水多消費型の農業など需要サイドの要因も大きい。

政府は「黄河断流」に対する対策を講じていて、90年代から広域的統一的な水資源管理に取り組んでいるが、環境悪化に対策が追いつかないのが実情だ。


2.太湖のアオコの害と長江流域の汚染
中国南部は降水量は多く、北部のような水不足はないが、深刻なのは水の汚染である。

  太湖は長江デルタ地帯にある中国で3番目に大きな湖で、蘇州、無錫に近い。名所旧跡にめぐまれた風光明媚な湖である。太湖周辺は淡水魚と農産物に恵まれ「魚米の郷」といわれている。太湖は周辺都市の無錫、常州、蘇州、上海に飲料水を供給している。

ところがこの20年、太湖周辺の工業開発と宅地開発のため、それぞれの排水が大量に太湖に流れこみ、太湖の汚染と冨栄養化を招いた。

2007年5月、太湖にアオコ(藍藻)が大量発生し、太湖の水は飲料水として使えなくなった。水道の異臭に気づいた無錫市民がペットボトルの買占めに走るという事態になった。政府は、太湖を汚染ワースト3の湖沼に指定し「三湖水質汚染対策計画」を策定し、対策を進めている。

北部の水不足解消のため、長江の水を3つのルートで北部に送るという「南水北調」計画が2002年に着工した。遅々として進まないのは、長江の水が汚染されていて、北部は汚染水の配水を歓迎しないからだといわれている。

3.新興国の水問題は、ビジネスチャンス
中国政府は、この20年環境保護を国策としており、「環境保護法」などの法制整備、部局の設置なども行われている。しかし経済開発のひずみで環境行政は後追いとなり、水問題が社会問題になると、その処理に追われるという問題対応型になっている。

中国の水問題は、30年前の高度成長期の日本と似ており、日本の当時の対応は参考になろう。当時の日本は、大都市の水不足、川や湖の汚染に悩まされた。水不足は広域給水と取水制限、節水、循環システムで対応し、川や湖沼の汚染対策は、排出規制、上下水道の整備、生態系の復元等で対応した。

新興国の水問題は、先進国の大きなビジネスチャンスである。中国には、フランスの「ヴェオリア」が上海の上水事業を行っているし、GE、シーメンスも進出している。水質浄化技術に優れている日本企業と自治体が共同して、中国の水ビジネスに取り組んでほしいものだ。

【記事】サーチナ