【記事】中小企業が融資難に陥る 中国政府は支援策講じるも「机上の空論」か

浙江省温州市では、数カ月前から融資難に陥っていた中小企業の倒産や、企業経営者が従業員の給料を滞納したまま夜逃げする事件が相次いで発生している。これに対し、中小企業の資金繰りを支援する金融財政緊急措置が12日に発表されたが、専門家はこれを「机上の空論」と見て、効果を期待していない。

 緊急措置を打ち出す

 国内メディア「東方早報」は11日、浙江省の政府報告を引用して、今年9月までに浙江省で企業経営者が従業員の給料を滞納したまま逃げた事件は228件に達し、計14644人の従業員の給料7593万元を滞納している、と報じた。その金額と関係する従業員数はともに史上最高だという。また、来年の元旦と旧暦春節ごろには、経営者の夜逃げ事件がさらに増え、大企業にまで波紋が広がる可能性があると同報告は予測している。

 この緊急事態を収拾するため、温家宝首相は12日に国務院常務会議を開き、中小企業への融資サポートなどに関する金融財政措置を打ち出した。具体的には、金融機関の中小企業向け融資の伸びがすべての融資の平均伸び率を下回ってはならないことと、中小企業への新規融資の総額が前の年を下回ってはならないことなどが定められた。

 机上の空論

 国務院のこれらの緊急措置はあまり役に立たないと中国の経済学者・綦彦臣氏は見ている。「金融引き締め政策を緩めないと当該措置の役目が果たせない。しかも、たとえ緩めたとしても他に2つの問題が存在する。1つは、銀行に貸出し可能な資金があるかどうかという問題で、もう1つは、誰がリスクを負うのかという問題だ」

 国内有力紙「21世紀経済」の報道は、浙江省政府が中央銀行に申請した600億元を除き、今回の危機を緩和するために温州市政府は1000億元が必要だと報じた。しかし、この報道について、温州市当局は後に否定している。

 温州市が否定したことは、中央政府がそのような救済措置を考えていないことを示していると綦氏は分析し、「実は、中央政府は実行可能な緊急措置を打ち出せない状態にある。今回温家宝首相が言及したことは、ほとんど03年〜05年までの中小企業促進法ですでに決められたものだが、実行不能な状態が続いていた」と指摘した。

 さらに同氏は「中小企業への融資は銀行が基本的にやらないことにしている」と指摘した。中小企業には完備した財政データがないため、銀行は評価できず、それに伴うリスクを負う主体がない。それに銀行が中小企業に求めるリベート(およそ1割)と時間コストは高すぎるため、中小企業にとってもメリットが少ない。

 また、同氏の調査によると、零細企業の9割はこれらの理由で銀行に融資を求めることをせず、親族や友人から資金を借りている。民間の貸付け利息は銀行の倍になるにもかかわらず、取引が発生するのは、中小・零細企業は国の金融システムを信用していないと解釈することができる、と綦氏は指摘する。

 巨大な商業手形市場

 さらに綦氏は、中国に高利貸し市場よりも規模の大きい商業手形市場が存在することに言及した。綦氏は、手形の資金源は主に2つあると見ている。1つは銀行にパイプを持つ人が個人の会社を設立し、より低い利息で銀行から融資をうけ、より高い利息で中小企業に貸す方法。もう1つは国際資金市場から流れてきたホットマネーだ。「政府はこの市場の存在さえ知らない。これも中国の金融危機を引き起こす火種となる」

 政府の措置は実行難

 米サウスカロライナ大学商学院の謝田教授は「政府の政策や措置はほとんど実行されていないのが中国の現状である」と指摘する。各級の幹部がかばい合い腐敗が蔓延っているため政府の管理システムが働かない。中央政府が救援措置を講じても、中小規模の銀行は自らの利益のため、中小企業への融資は依然として行わないと謝教授は見ている。その代わり、姻戚関係や利益関係のある企業、あるいは不動産などのハイリターン産業に資金が流れるとの見方を示した。

 中小企業は中国実体経済のもっとも重要な部分であり、中国の製造業の主体となっている。中国憲政学者の陳永苗氏は「国務院が中小企業をサポートする政策を打ち出すのは、この実体経済主体に大きな問題が起きていることを物語っている」と分析する。「温州の問題は氷山の一角に過ぎない」。たとえ中央政府が救援資金を出しても結局のところ、中小企業ではなく、国有企業に流れていくと陳氏は見ている。

 根本に専制と腐敗問題

 温州市がこのほど公開したデータによると、高利貸し市場の資金源の8割は公務員から集まっている。公務員からの投資は小額の賄賂から来ている部分が多く、ほぼタダでもらったこの部分の金はハイリターン投資に投じられる傾向がある。このような投資はインフレを一層悪化させる働きをもつ。このように、社会や政治問題が、経済にも影響して問題を引き起こすと綦氏は分析した。

 謝教授もこの点において同じ意見をもつ。「大規模な企業破綻や高額の不良債権がすでに発生しており、今、民間の中小企業に向ける融資政策を緩めても効果に限りがある。金融問題の背後にある専制と腐敗問題が問題の根源である。根本から問題を解決するにはこの2つの問題に着手しなければならない」と述べたうえで、緊急措置は表面で止まっており、根本的な問題解決にはならないとの見解を示した。


【記事】だいきげん