【記事】外国人社保の徴収方針固まる:地方でばらつき[労働]

外国人に対する社会保険料徴収について、全国の各地方政府がほぼ徴収方針を固めつつある。地方レベルの具体的な通達や実施細則はまだ出ていないものの、多くの地方政府が中国人と同じ納付基準や税率で徴収するのは、ほぼ確実な情勢。ただ上海市では「しばらく徴収しない」方針を決めたもようだ

日中両国政府は、両国間の社会保障協定の締結を目指して、10月から協議を開始している。ただ、もし目標とする2013年に締結できた場合でも、13年までの約1年余りは徴収されることになる。主な地域の動きをまとめた。

■北京は来月から徴収か

北京市は、既に外国人の社会保険加入の手続きに関する通達(京社保発[2011]55号)を出し、11月から徴収する方針を示している。ただ同市内の法律事務所によると、北京市が示したのは「とりあえず1カ月分の保険料」のみで、徴収の起算日が社会保険法施行の7月1日か、外国人の社会保険加入に関する細則の施行日の今月15日なのかも判明していないという。

外国人の社会保険の手続きや徴収などを代理で行っている、中国政府系の人材管理会社、北京市外企人力資源服務(FESCO)が市内の一部外資系企業に送ったメール文章には、「7月1日にさかのぼって徴収する」としている。

北京市では現行の中国人に対する税率が適用されるとの見方もある。現在の上限税率(月給1万2,603元)が適用される場合、会社負担分は養老保険が20%、医療保険が10%、失業保険が1%、労災保険が0.3%、出産保険が0.8%。個人負担分が養老保険の8%と医療保険の2%、失業保険の0.2%。同税率では、日本人従業員1人当たりの毎月の社会保険料は、個人負担分と企業負担分を合わせ計約5,334元(約6万4,000円)となる計算だ。

日系のアパレルや食品工場などが多く進出する青島市のある山東省でも既に徴収する方針を固めたもようだ。まだ具体的な実施細則などは出ていないものの、外国人の納付基準や税率は、中国人と同じで、日中間協定が締結されるまで徴収するもよう。

日本貿易振興機構ジェトロ)青島事務所は「山東省は中央政府のお膝元にある北京市の動きをうかがい、北京が税率などの具体的な実施細則を出せば、その後に山東省も出す可能性がある」と警戒。ただ同省内の日系企業社会保険が徴収される場合の対応策を進めており、既に予算などに織り込んでいるところもあるとした。

遼寧省大連市では、社会保険納付基数の上限値を撤廃する通達を出している。上限を撤廃する方針を示しているのは全国でも同市のみ。他地域では平均月収の3倍までを上限値としているのと違い、負担がさらに大きくなる計算だ。

■上海は「当面徴収せず」

上海市内の法律事務所が上海市政府関係者などから情報収集したところ、上海市政府は既に「当面徴収しない」方針を固めたもようだ。同市は2009年に企業と従業員個人が協議により加入を決めることができる任意加入の規定を発表しており、この規定を根拠とする。同規定によると、もし加入する場合でも、養老(年金)保険、医療保険労災保険の3保険の加入に限ることになる。

ただ「当面」がいつ頃までかは判明していない。一部「年末まで」とする見方もあるが、同法律事務所ではさらに長い期間を見込んでいる。

同法律事務所は「国内で最も外資系企業が集積する地域で、日系を含めた外資系企業に配慮したい上海市中央政府もこれを黙認する方針ではないか」と分析した。ただ、全国的には徴収する方向で変更はなく、地方政府によっては猶予期間を設けたりする可能性があると予測している。

■華南地方は様子見

華南地区では、各地方政府ともに北京や上海などの動きを様子見する雰囲気が濃厚だ。

華南地区の各地方政府の担当者にヒアリングした大手会計事務所、デロイトの片岡雅彦・税務マネージャーは「華南地区は北京などにならう姿勢はあまりみられない。特に経済特区として今後も日本のハイテク企業などを誘致したい深セン市などは、社会保険料徴収については今のところ実務上積極的な姿勢を見せていない」とした。

深セン市は当面実施細則を出す予定はないもよう。

一方、珠海市では過去に発表したローカル通達を基に徴収を進めようとする動きもある。広州市の地税局は実施細則を準備中と回答し、同省恵州市は簡単な実施ガイドを既に出しているという。


【記事】NNA.ASIA