【記事】資金チェーン断裂 民営企業崩壊の瀬戸際際

資金チェーン断裂 民営企業崩壊の瀬戸際
中国国内で、資金調達難の民営企業が相次いで高利貸から資金を調達し、返済できなくなった経営者が失踪または自殺するという事件が多発している。この問題に関して、専門家は「高利貸へ手を出せば死に向かうが、借りなければ死を待つだけ」という窮地に追い詰められた中国の中小企業の現状の現われと指摘する。中国政府は莫大な外貨準備高をもとに欧米先進国の国債などに投資しているにも関わらず、国内民営企業の資金調達難の深刻さを無視している。金余りの主体から金不足の主体へ融通すべき「金融」は、強制的な行政管理の手法によって正常に機能しなくなっている。本紙傘下の中国語週刊誌「新紀元」が関連特集を掲載した。

 民営企業家の大逃亡

 最近、温州の民営企業家が突然失踪する問題がメディアに取り沙汰されるようになった。信泰集団の董事長(会長に相当)のアメリカ逃亡がその一例である。9月20日夜、信泰集団の執行役、胡明芳氏が温州市瓯海経済開発区管理委員会に一本の電話を入れた。信泰集団の董事長の胡福林氏の行方不明の件だ。報道によると、胡董事長の電話は不通のままとなっていたが、21日の朝に胡董事長から突然電話が入ってきた。胡董事長は、会社の投資規模の急増と投資分野の拡大で、資金チェーンの断裂が発生したと告げた。

 信泰集団は1993年に設立し、3000人の従業員を抱える大企業で、傘下にある「海豚」商標は中国のメガネ業界では唯一の有名ブランドとなっている。またメガネ産業のほか、太陽光エネルギー、不動産などの分野にもビジネスを展開しており、全国民営企業トップ100へのランキングインを目指しているという。統計によると、昨年の信泰集団によるメガネの生産額は2.72億元に達し、今年1〜8月までの生産額は1.25億元に達したという。

 しかし同社は、景気情勢を楽観視し過ぎて、過剰投資に走ってしまった。情報筋によると、融資先の金融機関がすでに信泰集団に対する資金回収を行ったため、胡董事長が仕方なく民間金融に頼って資金不足を解決しようとした。しかし、1か月当たりの利息は2500万元にも達しているため、年間に計算すれば、利息だけでは3億元を返済しなければならない。信泰集団が実際に抱える借金額は20億元に上るという説も浮上している。

 似たような状況に晒されている温州の別の企業、永久スプリングの高志勝社長は、地元のメディアの取材に対して「我が社は5000万元の借金を抱えており、そのうち2000万元は高利貸による借金だ。(高利貸を行う)担保会社が私の娘を人質にしようとしたため、私は自分を抵当に入れて、やっと娘を取り戻すことができた」と話した。情報筋によると、高社長はすでに清算手続きを政府に申し入れている。

 さらに、9月27日、「温州正得利靴業」と「温州美人魚靴業」の2名の民営靴メーカーの経営者が、資金繰りを苦にして、飛び降り自殺をはかる事件が起きた。

 金融引き締め政策が民間高利貸横行の原因だ

 このような事件が多発した原因は、現在の中国の金融システムにある。中国の金融業は共産党政権中央政府が所有権を持つ国有企業が独占しており、また自由市場経済のような金利形成のメカニズムがなく、政府の人為的な操作によって金利などが決められる。2008年の世界規模の金融危機後、中国政府は8%の成長率を保つために、総額4兆元規模の景気対策資金と9兆元の貸付金を市場に投げ込んだ。その結果、インフレの圧力が未だに高水準で推移しており、世界的なインフレを招く結果となった。しかし、このような状況の下でのバブル経済のハードランディングを避けるため、再び人為的な手段を用いて、莫大な資金を回収しようとして、市中銀行から強制的に預かる資金の比率を示す預金準備率の引き上げを頻繁に実施してきた。

 金融引き締め政策の最大の被害者は、民営の中小企業だ。銀行は貸出リスクを避けるため、借り手を国有大手企業に限定する。中小民営企業は生き残りをはかるため、民間金融に頼らざるを得ない。特に2010年以来、民営企業の生産に関わる原材料は10%値上がりし、人件費も30%上昇。納税率も引き上げられるといった四苦八苦の状況に晒される一方で、価格競争力を維持するために、中小企業はコスト増加分を販売価格に転嫁できず、資金調達がますます難しくなる。

 後の禍を顧みず急場しのぎに走らざるをえない民営企業

 民間中小企業への融資が厳しく制限される中国では、政府当局は民間金融について、資金を貸し出す側を「高利貸」と定義し、資金を借りる側を「違法資金集め」と定義する。実に90年代後半から違法資金集め事件が多発していた。2007年に瀋陽で発覚された「蟻力神」違法資金集め事件は、少なくとも30万戸の蟻養殖農家から200億元の資金を集めたという。この事件の資金集めの手段はネズミ講的で、転貸融資が主な手法だ。

 目下、中国での1年物の預金金利は3.5%で、1年物の貸出金利は6.5%となっている。民間の高利貸の場合は、支払われる月間利息は最低でも0.03元で、年間利息はその12倍の0.36元だ。江蘇省泗洪県では、最後の貸し手は月間利息を0.1元から0.2元に引き上げた。実体経済の中で、中小民営企業の利潤率は3〜5%が一般的で、良くても6〜8%前後であるという。そのため、月間利息が0.08元や0.06元は、さておいて、0.02元程度ですら返済に見合わせる中小企業はほとんどいない。しかしながら、現行の金融引締め政策で正規で合法の銀行融資ルートを閉ざされたために、多くの中小企業経営者が資金繰りを苦に直ちに倒産するか、後の禍を顧みず急場しのぎの高利貸しへ手を出すかの苦渋の選択を迫られているのが現状だ。

 高利貸ブームに熱狂する国民

 苦渋の選択を迫られる中小企業と対照的に、強大なリスクを背負って、資金を貸し出して高利貸しになる人たちの熱狂ぶりだ。よく話題になっているのは江蘇省泗洪県石集村のケースだ。2010年の県全体の財政収入はやっと30億元を突破した程度のこの江蘇省北部に位置する内陸地区ではいわゆる高級外車が急に増えてきた。現在同県にはBMW800台余、ベンツ600台余、アウディ500台余、ポルシェ50台余、インフィニティ50台余、ジャガー30台余、キャデラック20台余、ランドローバー20台余、リンカーン10台余、ハマー10台余などなどある。

 これらの高級車は高利貸を行う同村の一部の村民が得た「戦利品」だ。その村民たちは1月当たり0.02元や0.03元の利息で資金を借り入れて、その後0.1元や0.2元、あるいはさらに高く利息を付けてその資金を貸し出すという転貸融資を行っている。月間利息0.1元で試算すれば、10万元を貸し出して、1ヶ月後に元本と利息収益を合わせて11万元の資金を回収することができる。

 温州発の危機は、北の内陸部の内モンゴル自治区にも飛び火した。内モンゴル自治区オルドス市では、ほとんどの住民が高利貸を行っている。その総貸付規模は2000億元に上るとされており、そのうちの大部分は年間利息60%以上で貸付けるという。また、これらの資金は主に現地の不動産市場へ流れ込んでいる。

 専門家:民間金融の不良債権比率は商業銀行より低い

 国内で頻繁に報道されている高利貸被害について、異なる見解もある。政府系商業銀行は40%の不良債権比率であるという観測に対し、民間金融のほうが低いとの見方がある。国内知的財産権専門の弁護士である周賓卿氏は本紙の取材に対し、大手金融機関は依然として中国の金融市場を独占しており、民間金融はその市場のわずかな部分しか占めていないのが実状で、政府当局は様々な口実を使って民間金融を制圧しようとするだろうという見解を示した。

 また、周弁護士は短期間において民間金融が大きな危機に直面するとの見方に対して否定的な認識を示した。周弁護士は、大多数の民間金融に流れ込む資本は大衆の労働による収入であるため、資金の貸し手は貸出に関するリスクとそのリスク管理を特に注視しているとし、「不良債権は常に存在し、リスクも常に存在する。最近のメディアによる頻繁な報道から、国民の民間金融への投入を望まない政府の思惑が感じられる」と話した。

 さらに、周弁護士は「国有商業銀行の不良債権比率は、民間金融より高いことに間違いはない」と言い切る。「なぜなら国有商業銀行の一番の所有者は中国政府で、全国民から徴収した税金でその不良債権を補うことが可能だ。国有商業銀行が最終的にどれほどの不良債権を抱えているのかを一般国民が知ることが不可能だ」と述べた。

 民営企業崩壊の瀬戸際

 米国在住の中国経済評論家草庵居士氏は、現在中国民間金融の年間利息は60%〜100%と極めて高い水準に達しているが、年間利息30%以上の高利貸すら返済できる伝統的な製造業企業が一つもないのに、年間利息100%という高利貸はなおさらだと指摘する。草庵氏は「各地でこれほど高利貸ブームが拡大しているのは、民営中小企業の資金チェーンが断裂している現状を表すもので、中小企業はまさに高利貸へ手を出せば死に向かうが、逆に借りなければ死を待つだけという絶体絶命の窮地に追い詰められている」と話した。

 草庵氏はまた、「中国政府は世界最大規模の外貨準備高を保有しており、その資金を米国や欧州などの先進国の国債などに運用しているにもかかわらず、国内で企業の資金不足が深刻化しているのは、経済史上でも稀にない奇怪な現象だ。民営企業が直面している窮地、その責任は中国政府に他ならないと言わざるをえない」と批判した。

【記事】だいき元